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18th「音圧!ウインドvsメガネ」

3回戦、トーナメント表
3回戦トーナメント表

健康的な朝だな。大会3日目も僕は早く目が覚めてしまったため、今日のDJの仕込みをしている。
今回の相手はストームさんを以前苦戦させたというアンダーワールドのイビザ支部、ウインドが相手だ。
僕はその時かき氷の食べ過ぎで気を失ってたけど、相当な手練れらしく、ここまでほぼまぐれで勝ってきた僕には正直荷が重い。

朝食を食べにホテルのバイキングに向かうと、もうみんな集まっていた。

「もぐもぐ…おいらの今日の相手は、DJケンタロウか、もぐもぐ、スクラッチの大会で優勝した奴らしいな。さすがDMT!ワクワクさせるような相手が残ってるぜ!もぐもぐ…」

「ちょっとストーム!ちゃんと食べてから喋りなさい!お行儀が悪いわよ。私の相手なんて以前ストームを負かしたDJ KAGEなんだから!アンダーワールドの技術部門の四天王なのよ!
昔ジャマイカ支部だった私とは格が違うわ…どうやって戦えばいいのかしら。」

「お前らはいいよな。俺はもう負けちゃってする事ないから金に任せてナンパでもしてっかな!」

僕はあんまり食欲が無くて、パスタとヨーグルトを少しずつしかお皿に盛らなかった。
「みんな、おはよう…」

「おいメガネ!それだけで足りるのか?俺の分も食うか!?」

ストームさんはバイキングをいい事に、盛り沢山な朝食だ。

「う…プレッシャーで食欲が無くて、これだけで十分だよ…。」

そこにきっちょむさんが現れた。
「おはよう!皆ミートボールは食べたかな?あれはいいぞう!おやメガネ君、元気なさそうだね!」

「だってストームさんがやっと勝てた相手と対決なんですよ!常識的に考えてキツいじゃないですか!ぴえん!」

「ま、まぁまぁ、ウインド君が相手だとプレッシャーも大きいよね。
なんでもストーム君に敗れたあと、右手に障害を抱えたウインド君は…おっと、司会者は迂闊にDJの個人情報を漏らしちゃいけないんだった。」

「途中まで話してそんな!」

「失敬失敬。今日の試合も楽しみにしているよ。」
なんとか朝食を食べ終えた僕は皆と一緒に会場に向かった。三回戦ともなると観戦者が大分増えている。

「最初はAブロックの俺だな。まぁ気楽にやってくるわ。」

きっちょむさんが叫ぶ。「それでは、DJストームvsDJケンタロウ、パーティ GO!!!!」

今回は完全にスクラッチの勝負だった。ストームさんは相手がスクラッチの手練れとして知ってて「乗った」のだ。

スクラッチはルーティンと言って10分以内ぐらいで個人のスクラッチの腕を評価するものだけど、今回は2人ともいくつかのルーティンを組み合わせて戦っていた。
しかしDMTでの持ち時間は1時間。そんなに長くルーティンで戦うのは厳しい。ストームさんは出っ歯のスクラッチ、炎のスクラッチ、で戦っていた。
ケンタロウも必殺のタンテ4台同時スクラッチなどを駆使して戦う。

「やるなケンタロウ!しかし…輝けビート!届け宇宙の端まで!必殺!コズミックスクラッチ!」

ストームさんのコズミックスクラッチが今回の勝敗を決めた。これが最後の曲だ。

https://youtu.be/hTB5DVEG12M
Mindwarp (Original Mix) - Utah Saints



「れこれこっ!」

「あれっ?」

「どうしたの?メガネちゃん。」

「今ストームさんが使ったコズミックスクラッチのレコードが「れこれこっ」
って喋ったような気がしたんだ。

「曲の一部じゃないのかしら?レコードが喋るなんて聞いた事ないわよ…生き物じゃないんだし。

「うん…そうだよね。」

「三回戦Aブロックの決着が決まりました!DJストーム、812票、DJケンタロウ、188票、DJストームの4回戦出演決定です!」

DJケンタロウがストームに話しかけた。
「ストーム、おつかれさん!あんたみたいな人と戦えてうれしかったゼ!俺も腕を磨かなきゃな!」
2人が握手をする。
「あんたの4台同時スクラッチはすごかったぜ。あんなのは俺にはできねぇ。世界は広いな!。」


「ストームさんおめでとう!それじゃあ、僕も行ってくるね!」
「おうよメガネ!ウインドは強敵だぞ。気を抜くな!」

いよいよ僕の出番になった。緊張が高まってくる。

「それでは、Bブロック、ウインドvsDJメガネ、パーティ GO!」

「こいつがストームさんがライバルと認めた男、ウインド…!」
ウインドの目を思わずにらみつけてしまう。

ウインドは紺色のマントを身に着けており、余裕の表情でこちらを見ている。

「風ーッ。ストーム君のお付きの、何君だっけ…?アンダーワールド情報管理部には君のデータは届いていないな…チェックするまでもない小物だということだ!」
が、手抜きはしない…!いでよ熱風!叫べ東風! Balearic Viento ~Euros~!!(バレアリック、ビエント ~エウロス~)」

プログレッシヴハウスの音と共に、
ウインドの左手の掌から、鋭い竜巻が僕のブースめがけて放たれる!竜巻は鷹のようにも見える形状をしている。

「…!おいらの時は普通の風だったのに、あれは完全にメガネのブースを狙った風の攻撃!
タンテ自体が危ういぞ!」

UFOが言う。
「あいつ、また懲りずに人の針、飛ばそうとしやがって!」

後ろに吹き飛ぶメガネのブースのタンテ!

だが落ち着いているメガネ。

「メガネちゃんのブース、音が止まらないわ!」

僕は暴風の中で叫んだ。
「前もって聞いてたらタンテを使うはずないだろ!今回は縦に持っても音が止まらない、世界一優秀なパイオニアさんのCDJ-2000NXS2(2020年時点)で勝負させてもらうよ!」

*持っている人は自宅のCDJを縦に抱きかかえて試してみよう。保証はしないが音が止まらないぞ!

風に飛ばされないように急いでDJブースにテーピングなどをするメガネ。

「風ッ。確かにレコードのみというのも珍しい時代になってしまったね。
だが、ただ君はメモリスティックでトラックをプレイしているのみ。それがどうした!」

ウインドの体が浮かび上がる。

ウ「流れる雲のように、気高き鷹のように、
空気を斬り一箇所に留まらず吹き続ける風、それがDJ!」

https://youtu.be/i-gyZ35074k
Zedd - Stay The Night ft. Hayley Williams


「ううう、汗が出て来たぞ…!すごい回力を感じる…!」
*回力…DJの持つ力の事

ものすごい勢いで盛り上がるお客。

UFOが言う。
「メガネはビッグな箱でプレイしていた俺様と違って小箱上がりのDJ…。
大箱の選曲に慣れていない。そこも地味にきついな…!」
*あまりにも壮大で派手な曲は小箱にマッチしないケースがあります。


「どいつもこいつもバカにしやがって…!僕が修行の間、何もしなかったと思っているのか!
いっけぇぇぇぇぇぇーーー!」
「DJメガネ - My glasses is still alive」
メガネが自作したと思われるトラックが流れる。

観客が呟く。
「聴いた事ない曲だぞ!」
「あ、でも俺、この曲サンクラで聴いた!メガネってやつが作った曲だったぞ!」
「本当!?あのメガネの子すごーい!」
*サンクラ…サウンドクラウドの事。自分で作った曲をアップロードできるサイト。

「メガネ…!オイラに黙って自分の曲を作ってたのか!夜中にF○2アダルトの有料チャットを見てるんじゃなかったのか!
裏切り者!」
「私のディーバタイプと同じように、メガネちゃん、「MAKER("メイカー")タイプのDJだったのね!」

ウインドが唸る。
「huuuuuuuuu!僕とのバトルで彼の能力をより引き出してしまう事になるとは!なんたる事!」

ウインドのマントが風でめくれ上がる。

そこには右腕は無く、
RCAケーブルに似た太い線が垂れ下がっていた。先端近くが赤い。

ストーム達「!!!!」

髪の毛が逆立ち、表情が怒りに変わるウインド。おでこにうっすらと「W」の文字が浮かび上がる。
「これはストーム、てめぇと戦うまで見せたくなかったぜぇぇぇ!
貴様にやられて無くなっちまった右腕をよぅぅぅぅ!」

ホーク君「コォーッ!」

「北風~Boreas~(ボレアース)よ我に力を!
必殺!Boreas Electro Energy(ボレアース エレクトロ  エナジー)!!!」


宙に浮いたウインドの右腕から大砲のようにフロアに向かって何かが放たれた!

DJウインドの必殺技
「Boreas Electro Energy(ボレアス エレクトロ  エナジー)」
アンダーワールドの技術の結集であるウインドの右腕、ウインドバスター。
圧縮した空気をフロアに向かって放つことにより、スピーカーから出たどんな楽曲の音圧をも自由自在に操れるのだ!」


観客が叫ぶ。
「音が変わった!音圧がすげぇぞ!ビリビリ震える!」

UFOが叫ぶ。
「どういう事だ!?」
「UFO、おめぇ聴き比べてみろ!メガネのフロアとウインドのフロアの音を!」
「民放のバラエティ番組と、N○Kのニュース番組ぐらいの音の大きさの違いがあるわ!」

メガネのトラックの波形
megane.jpeg


ウインドのトラックの波形
wind



きっちょむが言う。
「試合中だけどちょっと解説させてくれないかな。
昔のCDは何か音が小さいな…と思った事はないかな?
90年代から始まった、俗に言う「音圧戦争」。
ラジオ、テレビなどで音を大きく聴こえるようにするために、
コンプレッサー、リミッター、マキシマイザーなど、
数々のエフェクターを駆使し、エンジニア達は音を大きくし続けてきたんだ。
たどり着いたのが、今のウインドが出しているような「海苔波形」!!
今は必ずしも海苔波形が最適なものとはされていないが、音を大きくするために一部のトラックメーカーは前述のような工程を踏んでいる。
初心者トラックメイカーであるメガネ君の曲は、技術力の不足により、音が小さく、音圧がないんだ。」

(メガネが唖然とした表情で)
「…っちきしょう!っ曲は良くできてるはずなのに!金がなくていいコンプが買えなかったんだ!」

ウインドが厳しく諭す。
「自分のトラックをかける事もこれからのDJには必然となる時代だな…。
だがっ!!音圧をきちんと出せずに、世界大会で勝てると思ったか…!!!!。
音楽、中でもダンスミュージックにとって音圧こそ正義!行けっ!Breathe!」


https://youtu.be/mQ1D_YBcYMs
Breathe (Original Mix) - CamelPhat, Jem Cooke, Cristoph

「Call On Me」で一躍有名になったEric Prydzが立ち上げたレーベル、PRYDA PRESENTSからリリースされたプログレッシブハウス。
2011年から活躍しているJem Cookeのエモーショナルなボーカルもトラックを更に進化させている。


きっちょむの声が会場内のスピーカーから流れる。
「おっと、ここで時間切れ…!メガネ選手も健闘しましたが、801/199でウインド選手の勝利!」

「ちくしょーッ!」
メガネが自分のメガネを地面に叩きつけて割れてしまう。

地上に降りたウインド、再びマントで体を隠し、髪型も元に戻る。おでこの「W」もいつの間にか消えている。
「風ッ…。ちょっと取り乱してしまったね。君と会うのは準決勝だ。待っているよ、ストーム君。」

唖然としたまま言葉が出ないストーム達。颯爽と立ち去るウインド。

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-18thスクラッチ 用語解説-

●ルーティン
バトルDJで使われる用語。DJ本人が組み合わせたジャグリング、スクラッチ、曲の展開など技を複数組み合わせて一つのまとまりにしたプレイの事。
最近は「Serato DJ Pro」や「Traktor Pro」などでレコードを入れ替えなくても済むデジタル・ヴァイナル・システム(DVS)も増えている。
以下、「Creepy Nuts DJ松永のプレイから考える、DVSがもたらしたターンテーブリズムの進化」を参考の事。



●プログレッシブハウス
プログレッシブ・ハウス (Progressive house) は、ハウスミュージックの分類であり、1990年代前半に台頭し、当初は1980年代のアメリカやヨーロッパのハウスの自然な発達としてイギリスで発展して行った。
ダブやディープ・ハウスの要素、大きなリフ,楽曲の長さが長いことを特徴としている。
聖歌の様なコーラス、クレッシェンドやドラム・ロールを省略する事でユーロトランスやヴォーカル・トランス(英語版)と区別した。
トランスほどではないが荘厳なドロップ(サビの事)が特徴的でもある。BPMは主に120~130の間と、一般的なハウスより少し落ちている。(一部wikipediaから引用しました。)

過去曲の参考例
https://youtu.be/Rc2vESjopY8
Gat Decor - Passion (Original Mix)(1992年)

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テーマ:DTM、宅録、ミックス、レコーディング、機材 - ジャンル:音楽

2020.07.22 | Comments(0) | Trackback(0) | 18thスクラッチ Twitterでつぶやく

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